全国の聾学校の在学者は2001年現在、ピーク時の半数以下の約一万千人になりました。少子化の影響に加えて補聴器の発達により、全聾、難聴の子供でも普通小、中学校に進学できるようになったためです。 厚生省の掲げる、障害者が社会にとけこんで暮らす“ノーマライゼーション”の実現が進んでいる現われといえるでしょう。
1994年に、新しいタイプの補聴器「人工内耳」(じんこうないじ)が健康保険に組み込まれました。内耳に微小の電極を挿入し音を電気信号に変換、聴神経に直接電気刺激を伝える不可逆的な手術を乳児期に行い、特別な訓練をする事により、従来の補聴器では聴力を取り戻しえない先天性聾の子供が、音を聞きとり、会話ができるようになります。
もっとも、2001年12月現在、全国にいる約二千人の人工内耳装用者のうち、乳幼児期からの装用者は数えるほどです。また、全聾で生まれた子供が聴覚を取り戻し言葉を話せるようになるためには、専門家による特別な訓練、および子供と家族の心理的サポート体制が不可欠であり、残念ながらそれが整備されている保育園は現在ほとんどないのが現状なのです。
これに対し、私が音楽療法のインターン生として働いたニューヨーク州ブルックリンの先天性聾専門の幼稚園では、95%の児童が人工内耳を装用しており、一クラス約10名の子供に対して2人の学級担当の他、作業療法士、臨床心理士、スピーチセラピストそして音楽療法士などの専門家が協力して、多方面から子供達とその家族をサポートする体制が敷かれていました。
全聾の子供は、親と言葉でコミュニケーションがとれないがために、子供の健全な成長に不可欠な親子の相互理解に欠きます。また、音が聞こえないがゆえに、周りで起こっている状況を十分把握できず、常に精神的に不安な状態にあります。その親は、子供に十分愛情を伝えられない事へのフラストレーションと、普通聴覚を持つ他の兄弟との関係に悩みを抱えている。この様な家族環境は、子供の言葉の発達の速さにも影響します。この点において、様々な専門家たちによる家族のサポート体制は非常に重要な意味合いを持つのです。
そのなかで、私が専門とする音楽療法のユニークなのは、全聾の子供達が劣等感を感じる事のなく音の存在に気づき、言葉を学び、他者と意思疎通できるようになる環境を提供できることです。音のない世界に生まれてきた子供達が、音のある世界との関係に自信を持ち、言葉や音を使って自己表現する事を確実に手助けしていくことができます。
2002年の新学習指導要項では、障害児学校は父母への教育相談を行うなど、地域障害児センター的なものと位置付けられているが、障害児と家族の様々なニーズに専門家を使って応える体制はまだ十分に整っていない。しかし、現在約17000名の作業療法士、8338名の臨床心理士、5587名言語聴覚士、338名の音楽療法士を抱える我が国においては、アメリカのような層の厚いホリスティックな教育カリキュラムを組む下地はあると私は考えています。
障害児の社会参加と自立への道を開いていくために、専門家の一人として、他の分野の専門家と手を組み、子供達のより健やかな成長に必要な環境を作り出していきたい、と考えています。
■